学問

宇宙とダークマターと命と神

有名な話、「文明は人間を堕落させる」は、30年来の私の口癖である。とにかく、便利なもの、楽をさせてくれるものに対しては、敵意にも近い疑いの目を向けている。便利や楽と引き替えに、人間は固有の能力を退化させていく。 そんな私も、実は、テレビを見…

東洋文庫と仙台フィル第355回定期

昨日は、午前中に多賀城市の東北歴史博物館(歴博)へ行き、午後は、仙台フィルの第355回定期演奏会に行った。 歴博の特別展は「知の大冒険 ― 東洋文庫 名品の煌めき ― 」。東洋文庫とは、東京にある民営の東洋学文献センター(図書館兼博物館)である。…

権力の性質(毛沢東とプーチン)

まとめに入る。 毛は比類のない軍事戦略的能力のゆえに、中国共産党の指導権を握った。抗日戦争→解放戦争(国共内戦)を終えて、新しい国家の建設に入ると、することは大きく変わる。軍事的な戦略能力が、新国家の建設・運営に通用するとは限らない。しかし…

権力の性質(毛沢東の場合)・・・その6

権力者としての毛沢東を見ていて思うのは、「自分が正しい」という独善(もしくは、絶対の自信)と、国民の命の軽視である。 前者は、戦時中に様々な戦略的意志決定を行ってきた延長線上にある。トップの人間が、「このやり方で行く」となれば、そこに迷いを…

権力の性質(毛沢東の場合)・・・その5

第7回党大会で、指導権を完全に掌握した毛沢東は、その後も戦略家としての類い希なる才能を発揮し、国民党に対しても勝利を収めた。 問題は1949年10月5日の建国後である。共産党が連続した組織である都合で、毛の権力は新国家においても継承された。…

権力の性質(毛沢東の場合)・・・その4

毛沢東が言うように、戦争では、常に臨機応変の迅速な判断が求められる。しかも、戦略能力というのは天賦の才能であるようだ。凡人が何人もで会議を開くのではなく、天才が一人で即断即決するのでなければ、勝ちは望めない。そんな中で、毛に権力を集中させ…

権力の性質(毛沢東の場合)・・・その3

紅四軍において指導権を掌握した毛沢東は、その指導権を強化するため、1930年12月に富田事件を起こした。党内に反革命組織がいるというタテマエの下、多くの党員を逮捕、処刑したと言われる。いかにも、紅四軍内での指導権を握ったことによって、仮面…

権力の性質(毛沢東の場合)・・・その2

これらの方針の徹底として、毛は軍内に兵士委員会という組織を作った。これは大きな権限を持つ組織である。将校は、兵士委員会の監督を受けなければならなかった。将校が間違ったことをすれば、兵士委員会が制裁を加えることさえできたのである。 これらの民…

権力の性質(毛沢東の場合)・・・その1

昨今の不穏な情勢を見ていて、なぜこれほど滅茶苦茶な人間が権力者の地位に就くのであろうかと思う。一方で、私の専門である中国の現代史を見てみれば、プーチンに勝るとも劣らない専横の大御所・毛沢東がいる。私は昨年、毛沢東の権力掌握過程の初期につい…

斎藤幸平『人新世の「資本論」』

この2日間、職場の同僚に勧められて斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書、2020年)という本を読んでいた。これはびっくり。環境問題がいかに深刻な人類的課題であるかから始まって、資本主義が環境問題克服と絶対に矛盾する理由、それを克服す…

小林秀雄について(5)

普通に考えれば、前の小林の発言は、「開き直り」と言えるだろう。小林が戦時中大陸を訪ねた時に書いた文章は、決して戦争を美化するとか、侵略行為を正当化するとかいったものではないが、文学報国会の役員となったことや、その立場で、おそらくは戦意高揚…

小林秀雄について(4)

(3)を書いた時、私は「本居宣長」を用いて、小林が宣長を借りてどのように自己表現をしたか、ということを書きつなぐつもりだった。ところが、ふと「歴史」に寄り道してみようかという気持ちが兆した。 小林秀雄の歴史認識に関して論じた多くの文章の中で…

小林秀雄について(3)

前回書いたような、自分が生活体験の中からつかみ出した見解だけが信じるに値するという考え方は、自ずから抽象性を否定し、実感的、具体的な方向を指向するようになる。例えば、何かにつけて問題とされる次の一節。 「美しい『花』がある、『花』の美しさと…

小林秀雄について(2)

『本居宣長』は、たいへん立派な作りの重い本だ。箱から取り出すと、手触りがよく、目の粗い濃紺の木綿の布に金文字でタイトルと著者名が書かれている。副題が付いていないことで、なお一層風格が感じられる。表紙を開くと、見返しに奥村土牛の手になる山桜…

小林秀雄について(1)

最近、新聞の書評欄で見付けて浜崎洋介『小林秀雄の『人生』論』(NHK出版新書)という本を読んだ。実は、私にとって小林秀雄は中国近代史、明代思想史(陽明学)、高村光太郎、音楽史あたりに続く「第5専門」と言ってよい分野なのである。目に止まった…

方言の消滅

最近、古典の授業で定番『源氏物語』の「小柴垣のもとで」(若紫の巻)を読んでいる。中に、「髪ゆるるかにいと長く、めやすき人なめり」という一節がある。小柴垣の隙間から家の中をのぞき見する光源氏が、そこにいる1人の女房を評する場面だ。 「めやすし…

陰にウォーレス・ブロッカー氏

(10月15日付け「学年主任だより№21」より①) ノーベルウィークが終わった(裏面に10月12日付け朝日新聞「科学」欄貼り付け。見出し「今年のノーベル3賞振り返る」)。物理学賞を受賞した真鍋叔郎さんが元日本人だということで、報道は真鍋さんに…

イグ・ノーベル賞と津軽弁

書かずにいたが、9月24日に「学年主任だより 号外」を出した。8月25日にプレゼンテーション講話に来ていただいたS先生に、その後生徒から出された質問を抜き書きしてお送りしたところ、丁寧な回答を下さった。ほどよいレイアウトに整理して、分量がB…

ある論文の数奇な運命

今年の1月17日、東京の某大学の知らない先生から勤務先に電話がかかってきた。「縁のある中国人からの依頼で電話をしているのだが、あなたが5年前に書いた論文を中国語に翻訳して、中国・内蒙古師範大学の紀要に掲載したいのだが、了承してもらえるか?…

『「敦煌」と日本人』

東京の神保町に「東方書店」という中国関係書籍専門店がある。中国からの輸入書や、日本で出版された中国関係の本を売っているだけでなく、更には出版もしている。私も学生時代以来ずいぶん世話になっている会社である。 その「東方書店」が、『東方』という…

学校で学んだのは「学び方」

(7月21日付け「学年主任だより№15」より) 私は、家事や勉強の都合もあり、電車が1時間に1本しかないという事情もあって、できるだけ5時半の電車に乗れるように努力している。(私は主夫です。また、某生徒と先日こんな話をしていたら、「先生も勉…

『中国共産党、その百年』

昨日とはまったく違う、日本語の一般書を取り上げる。石川禎浩(いしかわ よしひろ)『中国共産党、その百年』(筑摩選書、2021年6月)である。世に出てからまだ1ヶ月。正に中国共産党建党100周年に当たって、その性質を考えるべく出された本である…

『冼星海年譜』に表れた変化

中国共産党建党100周年とは必ずしも関係しないが、ひとつのきっかけとして、最近読んだ中国関係の本2冊について、今日明日、少し感想めいたものを書き記しておこうと思う。 もう2~3ヶ月前の話になるが、査太元編著『冼星海年譜』(香港中大合唱協会刊…

終わって寂しい「ドラゴン桜2」

「ドラゴン桜2」が終わった。本当は、今週の日曜日が最終回だったのだが、我が家には、年齢の割に寝る時間が異常に早い息子がいるため、21時からの番組であるにもかかわらず、録画しておいて月曜日以降に見ることになっていた。昨夜は、私が外出していて…

『女たちの長征』

外出自粛、というだけでなく、いろいろと勉強したいことがあって、1日だけ母親の生活支援に行った以外、自宅で読書その他に時間を費やしていた。かつて読んだことのある本を手にすることが多かったのだが、そんな中で、唯一初めて読んだ本として『女たちの…

ヨハネ受難曲

先日、浅川保先生の著書に触れた時(→こちら)、「ちょっと骨の折れる本に取り組んでいた」ため、なかなか先生の本を読むことができなかった、というようなことを書いた。その「骨の折れる本」とは、私の研究に関わる中国の文献などではなく、礒山雅『ヨハネ…

印刷した後にしか見えない

先週末には我が家の梅が開花し、塩釜神社の河津桜は、今週月曜日(22日)に開花した。土日の間に開花して、私が気付いたのが月曜日、というわけではなさそうだ。なぜなら、月曜日も咲いていたのは1輪だけだったから。昨年の開花は18日だった。暖かい冬…

戦争を止めるのも「哲学」

2月の半ばに、山梨平和ミュージアム館長の浅川保先生から、著書『地域に根ざし平和の風をⅡ』(山梨平和ミュージアム刊)を送っていただいた。ちょっと骨の折れる本に取り組んでいたこともあって、「つんどく」してあったのだが、最近、ようやく通勤の電車の…

二宮金次郎の本(続々続)

かつて、小学校によく建てられている二宮金次郎像にいささかの関心を持ったことがあって、3度に渡って駄文を書いたことがある(→第1回、第2回、第3回)。全国の二宮金次郎の銅像には、全て等しく「一家仁一国興仁、一家譲一国興譲、一人貪戻一国作乱、其…

古典の誕生

先々週、娘の通う学校でクラスターが発生し、娘も濃厚接触者に指定された都合で、2日間仕事を休まざるを得なかった話は既に書いた(→こちら)。その2日間、自分としてはあると思っていなかった不意の休暇である。しかも出歩けない。さて、この機会に何をし…